ライフ・イン・ザ・シアター 総括。

後日記備忘録になってしまったので、初めに語って
しまおう。
約2ヶ月間、びっちりと地方公演を重ねて練り上げられた
70公演。
私が拝見した、丁度1/7の10公演の中で
一番集大成だと感じたのは、長崎の前楽でした。
大千穐楽は、人間としての逸る気持ちを若干抑えることが
難しかったかなと感じてしまいました。

幕間の音楽は、次の幕の情景をお客さんの想像力を頼りに
大きく膨らませる効果を担っていたと思います。
只、使用楽曲の著作の問題で映像に残らないことは
本当に残念です。
全く次元の違う、派手で狂騒的な『近代能楽集』の
俊徳を観て強く感じたのは、初演と再演とでは
全く別の次元の芝居になっていたと云うこと。
この映像化も類似な理由で叶いませんが、静かで
坦々とした『ライフ・イン・ザ・シアター』も
些細な表情の一つが心象の大きな役割を
果たしていたと思っています。
ですから、後列のみで観劇された方の為にも
映像化は必須だったのではないかと余念が残ります。

2006
0530()ソワレ。
前楽は、2列目上手にて。
2006
0531()マチネ。
大楽は5列目下手にて観劇。

劇場が、演劇に不向きな会場だったことは
第1幕が始まった瞬間に、お二人の様子を観て
直ぐに解かりました。
長い公演期間の終盤で、勿論お疲れも垣間見えました。
其れよりも、大きな会場の観客の為に
一杯一杯に声を張って演じていらっしゃる姿が
痛ましいとさえ思えました。
荒く乱れた呼吸は、後列迄は伝わらないとは云え
『頑張れ…あと2公演だよ…』と心の中で
念じるしか術はありませんでした。
けれど伸びやかで、自由に楽しんでジョンを
演じている竜也さんが、心底誇らしい舞台でもありました。

第1場。
『君達若い連中が、明日の演劇界を背負って立つ!』
と言った、ロバートに対するジョンの『はいっ。』の
一言が、とても希望的な印象で残っています。
お腹が空いたジョンの、ロバートに対する
『へぇー…』は、初期の頃の間やニュアンスが
私は好きでした。
大楽でティッシュ、見事に(笑)下手の舞台下へ
落下していましたね。
必死にジェスチャーで
『拾って!舞台の!其処に!置いて!』
と云う訴えが、笑いを誘っておりました。

第2場。
1ヶ月間拝見していなかった私を驚かせた、居眠り犬。
ぬいぐるみの頭を、なでなでぽこぽこしていた市村さん。
踏まない様に(^_^;)真剣に動いていた市村さん。
キュートで御座いました。

第3場。
劇中劇は、高くて広い舞台上の遠く奥で繰り広げられ…
竜也さんの息継ぎ最中の、苦しそうな喘ぎが
耳に残りました。

第4場。
剣先を…ふわっと空に置いていて驚きました。
東京公演では、オラオラ感が強かったジョンでしたが
何だか丸くなっていたなぁ。
大楽のノック・ウッド^m^そうじゃない!違う♪と
市村さんに何回も繰り返しを迫られた竜也さんでしたが
    『えっ?其れヤルの?!』
    『聞いてねえーっ!!!』
と云う、一瞬素で焦るジョンが最高でした。

第5場。
前楽でロバートの『中から!な・か・か・らっ!!!』が
異様に大きくなっていたのが可笑しかったのですが、
大楽では竜っちゃんもツボに入ったご様子でしたね。
最後の台詞が一瞬止まって、笑いを堪えながら
ぷるぷると震えていらっしゃいました。

最大の遊び処だったと言っても過言では無い、第8場。
熊のブラシって、ごわごわしそうだし…
チンチラのブラシは、軟弱そう。(笑)
ぐるぐる振り捲るジョンのスプレー缶、セット力が
強くなりましたよね?!
第17場で、ブラシを借りて前髪を梳かす時
滅茶苦茶引っ掛かっていたのです。
がっがっがっとね…
君の前髪は、そんなに絡まっているのかい…
固めてセットキープをするスプレー、恐るべし!
私が、最後まで竜也さんが手探りだったと思うのは
この幕の『抑える?抑える…抑えるって、何を?』の
部分だったと思っています。
この部分は、長崎公演での解釈の方が好印象でした。

第9場は、一時的に非常に『抑えない演技合戦』が
加熱してしまっておりましたけれど、後半では
ダイナミック且つ刺激的に、落ち着いた着地点であったと思いました。

第11場。
長崎の『ヴェニスはあぁぁぁっ!』と、立膝で
両手で空を仰ぐジョンには些か圧倒されてしまいました。
折角、市村さんの『寒すぎるうぅぅぅっ!』が
治まったと思ったのにね。(笑)

第13場と22場で目新しかったのが、仰け反って
『んん〜〜〜、もぅーーー…』と駄々を捏ねていたジョン。
実生活だったら、きっと自然にそんな風にするよなと
納得させられる小ネタでした。

第14場。
顎を上げてロバートに催促をする『パン。』
是、明らかに市村さんが竜也さんの真似をして
『パン。パアーン。』とおちょくっていて個人的に
最大級のツボポイントでした。

第15場のモヒカン…
残念!其れ、完全にアトムだからさ。(笑)
市村さんも、長崎では立っていましたよね
ちゃんと。
大楽ではもう、アトムの角を更にぐりぐりと
巻いていて、君そりゃあユニコーンを目指しているのかぃ?
と、問いたくなってしまいましたよ。

第17場も、遊びと迷い共に最後まであったと思います。
『黙っててくれなんて言って、すみませんでした。』〜
『駄目ですか?』が、常に試行錯誤でしたね。
時には憤慨して、時には不貞腐れて、時には激高して。
私は、怒るよりも下手に出た方がいいなと
常に思っておりました。

第19場は、ジョンのチキン気質(笑)が前面に
押し出されていましたね。
本番直前の舞台袖で、諸行無常を連呼するロバートも
挙動不審ですけども、出なきゃ…出ます…と言って
出て行ったくせに、裏に引っ込もうとするジョンなんて。
弱虫め。(爆)

第24場。
眼を見合わせて、顎で『ちょっと。』と無言で表したり
『せ・り・ふ!』とモロにロバートを追い詰めたり、
ちょっとジョンの嫌な奴度がアップしていた気がする。
千秋楽で、吸引チューブがぶちっ…と外れて
眼だけが妙に焦っていた竜っちゃん。
手術ベッドのストッパーが外れて、ころころと
前方へお人形ベッドが動き出して、あわわわと
焦って止めた市村御大。
ぐっじょぶ。(笑)

前楽のカーテンコールでのご挨拶は、市村さんが
『ほんとにねぇ(笑)こんなに大きな会場で。
 後ろまでびっちりとお客さんに来て頂いて。
 二階の方、見えますかぁ〜?』と手を振れば
『いっちゃあ〜ん♪』と元気な声が返って来て
お二人共、物凄く嬉しそうでした。
其れを受けての竜也さんのご挨拶が
『ほんとにねぇ(笑)もっと小さな空間で
 公演日数も増やせたら、沢山の長崎の方に
 もっと近くで見て貰えたのにぃ…
 是に懲りずに……』
竜っちゃん、思わず言葉に詰まって市村さんの御顔を
ちらっと見た。(笑)
日本語って使い方が難しいよね。
『懲りずにって!別に意地悪した訳じゃ
 無いんだからさぁ♪』
市村さん、ナイスフォロー。(*^^)v
気を取り直して元気に
『また、機会があったら是非観に来て下さい♪』
演じている時は、あんなに堂々としているのに
どうして素のトークでは、あんなにきょどきょど
しているのかっ♪不思議。

千秋楽のご挨拶では、市村さんの想い出の会場だと
発表されていましたね。
竜也さん、長かったのか早かったのかって?
えぇえぇ(^^ゞ貴方の仰る通り、本当は長くて
でも、あっと言う間でもありましたよ。
この日の黄色い声援の『たっちゃあ〜ん♪』に
思わず、泣き真似をした市村さんが可愛かった。
竜やんが市村さんに勢いよく飛びついて、
共倒れしてしまったのも何だかお二人らしくて
微笑ましかった。
暫く寝転んだまま、起き上がれなかったもんね。
『あーっ!終わったなあー!!!』って噛み締めて
いたんだと思うなぁ。
自分のガタイの大きさの自覚が無いジョンと、
『前に!しゃがんで!おんぶしてっ♪』とゼスチャーで
せがむロバート。
最後の最後まで、おちゃめな2人でした。

どうして今、この作品であったのか。
人生のターニングポイントは、常に必然だと私は
信じて疑いません。
其れは、このお芝居の終盤のジョンが俳優さんの
魂を、恭しく温めていたから。
役者さんへのリスペクトやオマージュと言うよりも、
自分の中に全てを取り込んで吸収してしまったかの様に。
ロバートの劇中の台詞に
『舞台の上で行われることは、其れ自体が一つの人生』
『自分の人生の一部分にもなる』と云うものがあります。
是は、竜也さんの実俳優人生の中で大変大切な詞だと
確信しています。
公式ブログの一番最後のお写真の、満足気な彼の表情が
全てを表している様に感じます。

次の演目はオレステスに決まっていますが、恐らく
ハムレット以上のものを魅せて下さると私は思っています。
ハムレットの再演を望む声は多く、私も竜也さんの
新たなハムレットを何時の日かは観たいと切望して
おりますが、あのハムレットが誕生したのは
『人生の一部分』として積み重ねて来たものが
確実に存在した故のこと。
このライフ・イン・ザ・シアターも、着実に竜也さんの
血肉となっていると期待しています。




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