近代能楽集・さいたま千秋楽 2005/6/19


とても力強い公演でした。

卒塔婆小町の登場効果音はそのまま使っておりましたが、舞台へ小町が乗ってからは
小さくボリュームを絞って台詞が乗る頃には早めに引いていましたね。
このまま地方公演へ持ってゆくかは判りませんが、NY公演へ向けての
試験段階的な使用なのかもしれません。

壤さんが、これでもかと全力で小町を演じていらっしゃるのが伝わります。
響き渡る御声が素晴らしく心地好いのです。
洋さんの詩人は、やはり熟成されましたね。
初演時には若さでぶつかる若人でしたが大人の色気を放っていらっしゃる。
今迄ふれませんでしたが、横田さんの詩人は爆発的でした。
真っ直ぐに伸びる直線の力に対して、洋さんの魅力は横に広がる大らかな
包み込むパワーですね。

弱法師は、級子に夏木さんを登用したことで三島氏の嗜好が強くバックグラウンドに漂う
ことになりました。
調教師と奴隷、ご主人様と召使い。
私は痛いことが大嫌いですが、痛みにこそ快楽を覚える嗜好は確実に少なからず
存在します。
あからさまには公言出来ないアングラ性を強固に打ち出したことにより、居た堪れぬ
抑圧性と従順的空気が重く圧し掛かります。
そのことで、返ってお互いに興味を示し合っている俊徳と級子の間には
現実的なエロティシズムを感じなくなりました。
非日常の仮想空間で得る性的快感はひとときの逃避であり、日常は常に
現実で輪廻は繰り返される。

俊徳の隔絶された固有の世界とこちら側の世界の隔たりが、より濃密に
押し出されていました。
彼が級子を毒した様に見えても結局は彼女の凛とした核は打ち破ることが出来ずに。
級子が俊徳をこちらの世界へ引き戻した様に見えても、実は彼も自ずから孤立した
暗闇に立て篭もることを選んだ。
俊徳の台詞にもありますが、目明きが為に見えぬものと盲ら故に見えるもの。
それを劇場の空気中に散布する様な超越芝居になったと思います。

初日から一週間と、その後の変化が著しかった為に初めは拒否反応を
起こした三島演説が、後半には効果的に映る様になりました。
彼と共に戦慄の猛火を潜り抜けても、隔絶された闇から普遍的に抜け出ることを
拒み望まぬ俊徳と、誰もその領域を決して侵すことの出来ぬ空惜しい気持ち。
それが暗転後に観客を押し潰そうと襲います。

竜也さん、さいたま楽嬉しそうでしたね。
きっと苦心しただけ大きな収穫が貴方には戻って来ます。
地方公演も紆余曲折いいじゃない!
その末にニューヨークへ持ってゆく真義を見付けて下さいね。